再興第102回院展。リバーウォーク北九州にある北九州市立美術館分館で開かれている北九州展では、同人32作品、一般(昨秋に同人推挙2人の作品を含む)41作品、表紙絵1作品の、計74作品を展示している。各地の巡回展のうち北九州展は会期が最も長く、4月6日(金)から5月6日(日)まで開催。期間中は無休で、開館時間は午前10時から午後6時(入館は午後5時半まで)。料金=一般千円、高大生600円、小中生400円。井筒屋withカードの提示で一般800円に割引。
 気になった作品をいくつかピックアップする。

同人作品

古都の春 那波多目功一 詳細
 記憶の中にあった絵はがきの世界に挑んだという本作。画伯の脳裏にあった絵はがきは、写真がプリントされたものではなく、本当に「絵」だったのだろう。古都を彩る桜の美しさに始まり、ややデフォルメされた五重塔の存在感や、背景となって花や寺を引き立てる山並みの美へと目線が移っていく。そうしてまた、手前の桜にはっとする。旅の古い記憶は、きっとこういうパーツの美の連鎖でできあがっているし、絵はがきはそれらのパーツの集成だ。絵はがきを出発点にすることでいっそう洗練され、記憶の中の古都に華を与えた。静かにも長く心をつかむ日本画、魅力の淵がここにある。

朝陽と三日月 福王寺一彦 詳細
 カンバスの上にさらにカンバスを重ねている。満月のような色の太陽と輝く三日月が並ぶ構図は、現実世界としてはあり得ない。ただ、福王寺画伯の世界観では現実がどうあるかというのは些末な問題でしかない。湖水を照らす満月のごとき朝陽。たたずむ女。祈りの花びら。星屑。ひとつひとつが美しい。画伯の院展出品作品に太陽が出てくること自体が「異例」と思うが、次回作はどのようなテーマになっているのだろうか。興味が尽きない。

小さな駅 小田野尚之 詳細
 最初に目が行くのは真ん中に描かれた単線の駅。北海道かと思うような雪の風景とはいえ、決して豪雪に閉ざされているわけではない。描かれているのは島根県江津市の旧三江線・鹿賀駅のようだ。もちろん雪も多く降る山間部ではあるが、人の踏み跡もあれば、絵右側に描かれている小さな集落はどうやら除雪もされている。それでもなお寂しさを与えているのは絵の上端部にある堤防と川(江の川)、それに絵の左半分を占める色の少ない田畑か。中央に線路を持ってきて絵を左右に区切るような構図に斬新さを覚えるし、そうあっても破綻させない画力に感嘆する。受賞に疑義なき傑作。(内閣総理大臣賞)
 なお、廃線となっていく鉄路を絵画で残すのは本当に良いことだと思う。写真は見える全部を伝えるが、絵画は見たいものや心の中の澱を色濃く反映させることができ、この時代に生きた人が当地をどう思っていたかを残せる。「実体」と「感情によって作られる実体」を表現できるという意味で、写真と絵画の両方で、記録を後世に伝えるのはかなり良い選択であろう。


一般

狭間に燃ゆる 木﨑理菜 詳細
 初入選作。作者のプロフィールが分からないが、おそらく若い方ではなかろうか。構図や筆遣いから丁寧さが伝わってくる作品で、選ばれるべくして選ばれたという感じがする。描かれた女性の内面を投影するような陰陽の世界が美しい。作者がシルクロードを描いたり、日本海の荒れ海を描いたりしたら、どんな作品に仕上がるのだろう。期待の膨らむ良作である。

三面川の幸 番場三雄 詳細
 題材の持つ迫力を最大化したような作品。鮭の遡上や鮎の産地として知られる三面川(みおもてがわ/新潟県)で繰り広げられる漁師と鮭との「格闘」の様子を、繊細な筆で表現している。絵画の魅力を存分に感じられる佳作。(作者は2017年秋に同人推挙)

静寂~大野教会堂~ 平山理 詳細
 マルク・マリー・ド・ロ神父が設計したという明治中期の巡回教会。作品は建物本来の美しさを残しつつ、陰影や空を舞う鳥の置き方が工夫され、鑑賞者を物語に引きずり込むような魅力がある。

月光 田中裕子 詳細
 照りつけられた月光が、くらげ(漢字で書けば海月)によって隠されている。構図が理にかなっていて、近くで見ても、遠くから見ても、美しさが損なわれていない。



 ところで、今回は全体の応募点数が501点で、前回の525点や第100回の552点を下回った。10年前の第92回は652点だったので、残念ながら長期低迷傾向にある。芸術作品なので多寡を競ったり、評価したりするものではないし、他の公募展がどうこうということもないが、ただ伝統ある公募展だけにいくばくかの喚起策が必要かもしれない。
 報道や広告も「院展が始まりました」という類いのものだけではなく、一般への認知を高めるために、どういう作品傾向の公募展なのかやこれまでの伝統などにも触れてほしいなと思う。