今日は図らずも電車に長く乗ったため(笑)、小説1冊、読み切ってしまった。

再び、恩田陸さん。
 「木洩れ日に泳ぐ魚」(文春文庫)

 
 

唯川恵さんが書きそうな小説を、恩田さんが書くとこうなるのか!という作品。そして解説が鴻上尚史さんだからかもしれないが、演劇にしても良さそうな作品だった。

 
一気に読んじゃったなぁ。笑

 
 
(さて、ここからは、ネタバレ含むので、明らかに読まないよっていう方は続きへ) 

 
この小説を読んで、ふと、画家・岡本太郎さんは敏子さんに対してどういう愛情(感情)を抱いていたのだろう――と、そんな本編とは全く関係のないことを思った。

 
 
で、ストーリーに生きた人物として登場するのは男女一人ずつ。夜から朝までのほんのわずかな時間が舞台だ。

疑心と猜疑心に満ちた濃い夜。ほとんどがらんどうのアパートの一室で、思い出と言うには危険すぎる過去を振り返る。

彼らは酒を飲みながら、彼らの心のアルバムを繰っている。ページを開くたび、ざらざらとした澱のような過去が、ゆっくりと、痛みを持って蘇ってくる。

 
ある瞬間、ヒロインがこんなことを相手に詰問した。

 「あなた、誰かを愛したことがある? 本当に、誰かのことを心から?

 
そして、こうも自問している。

 「私が彼を好きだったのは、彼が私を好きだったからだ。私は私を好いてくれる彼が好きだったのであって...」

 
 
ああ、なるほど、それは真理だな。

・・・なんて今日は、揺れる電車の中で、隣に立っていた高校生の臭い匂いに嫌な顔をしながら、そんなことを思っていた。

いや、そういうストーリー仕掛けは、世の中の小説という小説に腐るほど満ちているのだけれど、恩田陸さんに言わせたらそうなるんだな、と。
傑作。普通の恋愛小説に飽きた方には、間違いなくおすすめだ。

 
 
夜明けに登場人物はこんなことを言い聞かせる。

――今の私たちは大人だ。(略)もっと演技力は向上しているし、これが最後だと思えば互いに優しい記憶を残して立ち去りたいと思っても不思議ではない。(略)大人の知恵。心を守るための知恵。こうして今、私たちは、まるでかつての私たちのように見つめあっている。

 
濃密すぎた夜に訪れる謎解きと離別。
彼らはひっそりと衝撃的な朝を迎える。



 単行本:2007年7月(中央公論新社)
 文庫本:2010年11月/文春文庫(本体590円) 


恩田 陸
文藝春秋
2010-11-10